左SBの“本職”は鈴木十一だけ──横浜F・マリノスの懸念と補強戦略
横浜F・マリノスにとって、2025年シーズンの左SBは再編が避けられないポジションとなっている。
京都から加入した鈴木十一が本職として起用されているものの、他の選手は加藤蓮や渡邊泰基といったユーティリティ型に依存しているのが現状だ。さらに永戸勝也(現ヴィッセル神戸)の移籍により、人材不足は一層際立った。
こうした状況を踏まえれば、クラブが「左SBの補強」を検討しているのは明らかだ。今回は現実的な選択肢として、戦術的にフィットする可能性を持つ5人の選手を取り上げる。
左サイドに再び“競争”を──マリノスが今夏求めるピースとは
松原后(ジュビロ磐田|28歳)
- ポジション
- 左SB(両SB・WB対応可)
- 所属
- ジュビロ磐田
- 経歴
- 清水 → シント=トロイデン → 磐田
- 2025年成績
- 23試合出場/2得点/1アシスト
2015年に清水へ入団。ルーキーイヤーから守備陣の負傷を受けて出場機会を得た。2017年にはJ1で全試合フルタイム出場を達成し、一気に主力に定着。さらに2018年以降も清水の左SBを担い続けた。
その後はベルギー1部シント=トロイデンへ移籍したが、出場は限られ2022年に磐田へ復帰。2023年にはJ2で40試合6得点と攻守で躍動し、昇格に大きく貢献した。翌2024年にはキャプテンマークを託され、精神的支柱としても存在感を示した。
一方で、2025年も磐田でプレーしているが、クラブが降格した状況を考えると移籍を模索する可能性は十分にある。上下動の豊富さとクロス精度を兼ね備え、左SB不足に直面するマリノスにとって最も現実的な国内即戦力候補だ。
広瀬陸斗(ヴィッセル神戸|29歳)
- ポジション
- 右SB/左SB/WG
- 所属
- ヴィッセル神戸
- 経歴
- 浦和ユース → 水戸 → 徳島 → 横浜FM → 鹿島 → 神戸
- 2025年成績
- 23試合出場/0得点/1アシスト
浦和ユース出身。父も元プロというサラブレッド。水戸・徳島でキャリアを積み、2019年に横浜FMへ加入すると、アンジェ監督のもとで攻撃的SBとして優勝に貢献した。
しかし2020年に鹿島へ移籍し、2024年には神戸に加入。左右SBに加えてWGとしても起用されるなど、プレーの幅を広げた。特に2025年シーズン第22節・広島戦では約5年ぶりとなるゴールを記録している。
さらにマリノス在籍歴があるため、チーム戦術への適応もスムーズだろう。左SBの本職が鈴木十一のみという現状を考えると、“内部熟知型の柔軟補強”として大きな意味を持つ存在となる。
舩木翔(セレッソ大阪|27歳)
- ポジション
- 左SB/左CB/左WB
- 所属
- セレッソ大阪
- 経歴
- C大阪ユース → (期限付き)磐田・相模原 → C大阪復帰
- 2025年成績
- 9試合出場/0得点/0アシスト
C大阪の下部組織出身で、2016年にはU-19日本代表の左SBとして優勝に貢献した。2017年にトップ昇格したが、出場機会は限られ、磐田や相模原への期限付き移籍を経験。その後2022年にC大阪へ復帰した。
復帰後は左SBに加え、左CBや3バックのウイングバックとしても起用され、山中亮輔の負傷離脱を機にレギュラーを確保した。対人守備やカバーリングに強く、さらに左足の配球力も安定している。
しかし今季は出場数が限られており、ポジション争いに苦しんでいる。それでも複数ポジションに対応できる柔軟性は評価が高く、守備強化を目指すマリノスにとって現実的な補強候補になり得る。
高畑慧太(V・ファーレン長崎|24歳)
- ポジション
- 左SB/左CB
- 所属
- V・ファーレン長崎
- 経歴
- 大分 → 鳥取 → 大分復帰 → 磐田 → 長崎
- 2025年成績
- 17試合出場/0得点/2アシスト
大分の下部組織で育ち、2019年にトップ昇格。J3鳥取への期限付き移籍で経験を積み、さらに大分復帰後にはJ2でも出場を重ねた。2024年に磐田へ移籍し、2025年からは長崎でプレーしている。
本職は左SBだが、左CBとしての経験も豊富で、後方からのビルドアップと空中戦対応に強みを持つ。クロス対応にも優れており、安定した守備を提供できるタイプだ。
その一方で、まだ24歳と若く、成長の余地は大きい。マリノスのように高いラインを敷くクラブでも適応可能で、将来性と即戦力を兼ね備えた補強候補として注目される。
吉田豊(清水エスパルス|34歳)
- ポジション
- 左SB
- 所属
- 清水エスパルス
- 経歴
- 清水 → 甲府 → 鳥栖 → 名古屋 → 清水
- 2025年成績
- 9試合出場/0得点/0アシスト
静岡学園高、日本体育大を経て清水に加入し、その後は甲府や鳥栖、名古屋でも主力としてプレー。2023年からは清水に復帰し、現在も第一線で戦っている。
通算400試合以上の出場を誇り、低い重心での鋭い対人守備に定評がある。34歳となった今もスプリント量はリーグ上位水準を維持しており、ハードワークを続ける姿勢が光る。
加えて、リーダーシップや鼓舞力でも高く評価されている。ベンチでも声を出し続け、若手の模範となる存在は、単なる補強を超えてチームの空気を変える可能性を持つ。マリノスにとっては戦力以上の価値を生むベテランだ。
補強の方向性が示すクラブの未来像
マリノスにとって、左SBの本職が鈴木十一しかいない現状はシーズンを通して大きなリスクとなる。
だからこそ、補強のターゲット選びは単なる戦力補充にとどまらない。
例えば、松原后のような即戦力型を選べば「今季の優勝争いを最後まで走り抜く姿勢」が示される。
一方で、広瀬陸斗のようにクラブを知る選手を呼び戻すなら「戦術適応力と内部熟知度」を優先した選択になる。
さらに、舩木翔を加えれば「守備の安定性と戦術的なオプション拡大」が狙いとして浮かぶ。
その一方で、高畑慧太を獲得するなら「将来性を投資しつつ即戦力としても使う」二重の意図が読み取れる。
そして吉田豊を選ぶなら、「戦力+メンタル面でのリーダー」をチームに加えたいという意思の表れだろう。
結局のところ、マリノスがどの方向性を取るかはクラブの未来像そのものを映し出す。
即戦力か、内部熟知か、将来性か、それともリーダーシップか──。
この夏の補強戦略は、残りシーズンの行方だけでなく、来季以降のチーム作りにも直結する重要な分岐点になる。