PSGのキックオフ戦術:序盤から主導権を握る“狼の群れ”のような攻撃性

2025年のクラブワールドカップ(CWC)で注目を集めたのは、パリ・サンジェルマン(PSG)の華やかなスター選手たちだけではない。ルイス・エンリケ監督のもとで進化を遂げたPSGは、試合開始直後から相手のリズムを崩す独自のキックオフ戦術を武器に、世界の舞台で圧倒的な存在感を示した。
従来のように後方から細かくパスをつなぐのではなく、PSGはキックオフ直後にボールを敵陣深くへと放り込む。特にサイドのコーナー付近を狙うことで、相手にスローインを強いる。この一見単純なプレーには、相手のテンポを狂わせる巧妙な意図が隠されている。スローインは角度が限られ、テンポが落ちるため、効果的な攻撃を組み立てにくい。PSGはこの“隙”に高圧的なプレスを仕掛け、相手を窒息させるようにボールを奪いにかかる。
Embed from Getty Imagesこの戦術は、CWCでの試合展開にも大きな影響を与えた。準決勝のレアル・マドリード戦では、開始24分までに3得点を奪い圧倒。チャンピオンズリーグ決勝のインテル戦でも、序盤に2-0のリードを築いた。実際、PSGは直近17試合中9試合で開始20分以内に先制点を挙げており、キックオフ戦術が試合の流れを決定づけていることが分かる。
この戦術を支えるのは、選手たちの高い連携と献身的な守備意識だ。ウスマン・デンベレやフヴィチャ・クヴァラツヘリアは守備への戻りも速く、アクラフ・ハキミは相手サイドバックにまとわりつき、ビルドアップの芽を摘み取る。ジョアン・ネヴェスは「ボールを失ったら5〜10秒以内に全力で取り返す。それが再び攻撃するベストな方法だ」と語り、チーム全体がこの戦術に対する強い意識を持っていることがうかがえる。
Embed from Getty Imagesこのキックオフ戦術は、単なる奇襲ではなく、PSGのハイテンポなサッカーを駆動させる“心理的な合図”でもある。試合開始と同時に相手を圧倒することで、主導権を握り、試合全体の流れを自分たちのペースに引き込む。まさに“狼の群れ”のような素早く獰猛なプレッシングは、PSGの新たなアイデンティティを象徴している。

CWC決勝ではチェルシーに敗れたものの、この戦術が世界の舞台で通用することを証明したPSG。今後もこの“キックオフからの支配”が、彼らの戦術的な切り札として注目され続けるだろう。