左SBの“本職”は鈴木十一だけ──横浜F・マリノスの懸念と補強戦略
Embed from Getty Images2025年シーズン、横浜F・マリノスの左サイドバックは明確に“再編のタイミング”を迎えている。
開幕前に京都から加入した鈴木十一が本職として試合に出る一方で、他の選手たちは加藤蓮や渡邊泰基といったユーティリティ枠に頼らざるを得ない状況。永戸勝也の神戸移籍によって、左サイドの人材不足は顕在化している。
この現実を受け、クラブは明らかに「左SBの補強」を視野に入れている。今回はその中でも、現実的かつ戦術的にフィットする可能性のある5人をピックアップして紹介する。

左サイドに再び“競争”を──マリノスが今夏求めるピースとは
松原后(ジュビロ磐田|28歳)
Embed from Getty Imagesポジション:左サイドバック(両SB・WB対応可)
所属:ジュビロ磐田
経歴:浜松開誠館高 → 清水エスパルス(2015〜2019)→ シント=トロイデン(2020〜2022)→ ジュビロ磐田(2022〜)
2015年に清水エスパルスへ入団。入団時はDF歴わずか1年半ながら、守備陣の負傷を受けてルーキーイヤーから出場機会を得た。2016年にJリーグ初得点、2017年にはJ1で全試合フルタイム出場を記録するなど急成長。2018年以降も清水の主力SBとして活躍した。
2020年、ベルギー1部シント=トロイデンへ移籍するも、2年半で公式戦出場は15試合にとどまり、2022年に契約満了で退団。同年7月にジュビロ磐田へ復帰。2023年はJ2で40試合6得点と攻守両面で活躍し、クラブのJ1昇格に大きく貢献。2024年には一部試合でキャプテンマークを任されるなど精神的支柱としても存在感を発揮した。
2025年もジュビロでプレーしているが、J2降格を経た状況下で、キャリアの再浮上をかけた移籍も選択肢となり得る。上下動、クロス精度、戦術理解に優れ、左SB本職の選手が鈴木十一のみというマリノスの現状においては「即戦力として最も現実的な国内補強候補の一人」。
2025年:リーグ戦23試合出場、2得点、1アシスト、警告/退場:3/0
広瀬陸斗(ヴィッセル神戸|29歳)
Embed from Getty Imagesポジション:右SB/左SB/WG(ユーティリティ)
所属:ヴィッセル神戸
経歴:浦和ユース → 水戸 → 徳島 → 横浜FM(2019〜)→ 鹿島 → 神戸 特徴:運動量豊富なSB。両サイド対応可能+WG起用もあり
浦和ユース出身で、父・広瀬治(FKの名手)も元プロ選手というサラブレッド。水戸・徳島でキャリアを積み、2019年に横浜F・マリノスへ加入。アンジェ体制の“攻撃的SB”としてJ1優勝に貢献した。
2020年からは鹿島でプレーし、2024年にヴィッセル神戸へ移籍。SBに加え左WGとしても出場するなどポリバレントな起用が増加。リーグ第22節・広島戦では約5年ぶりのゴールを決めている。
左右どちらでもプレーできる機動力と戦術理解力が武器で、マリノスに在籍歴があるため再合流もスムーズ。本職左SBが鈴木十一だけという現状を考えると、“内部熟知型の柔軟補強”として非常に有効なターゲットと言える。
2025年:リーグ戦23試合出場、0得点、1アシスト、警告/退場:0/0
舩木翔(セレッソ大阪|27歳)
Embed from Getty Imagesポジション:左サイドバック/左CB/左WB
所属:セレッソ大阪
経歴:C大阪U-15・U-18 → トップ昇格(2017年)→ 磐田・相模原への期限付き移籍 → C大阪復帰(2022年〜)
セレッソ大阪の下部組織出身で、2016年にはAFC U-19選手権で日本代表の左SBとして優勝に貢献。2017年にトップ昇格後は出場機会に恵まれず、磐田・相模原への期限付き移籍を経て2022年に復帰。
復帰後は左SB・左CB・3バック左ウイングバックなど複数ポジションでプレーし、2023年に山中亮輔の負傷離脱を受けてレギュラーに定着。特に対人守備とカバーリング、左足からの配球力が安定感を生んでいる。
2024年はCBとSB両方での出場が続き、戦術理解度も高い。今季出場数も少なく、「守備型SB」「戦術柔軟性の高い選手」として現実的な国内補強ターゲットとなり得る。
2025年:リーグ戦9試合出場、0得点、0アシスト、警告/退場:1/0
高畑慧太(V・ファーレン長崎|24歳)
Embed from Getty Imagesポジション:左サイドバック/左CB 所属:V・ファーレン長崎(2025年〜) 経歴:大分トリニータU-15→U-18→トップ昇格(2019年)→ 鳥取(期限付き)→ 大分復帰 → 磐田(2024)→ 長崎(2025〜)
サッカー好きの父の影響で大分トリニータのスクールに通い始め、左利きを活かして中学時代から左サイドのポジションを担当。高校進学後はU-18でSBに転向し、守備対応と左足のビルドアップ能力を武器にポジションを確立。
2019年に大分トップ昇格。1年目から出場機会を得た後、J3・ガイナーレ鳥取への期限付き移籍で初ゴールも記録。2022年にはJ2で大分初得点、2024年にジュビロ磐田へ完全移籍。2025年からはV・ファーレン長崎に籍を移し、守備の主軸として起用されている。
本職は左SBながらCB経験も豊富で、後方ビルドアップと空中戦、クロス対応に強み。マリノスのような高ラインを敷くクラブにも適応可能なタイプであり、今後のキャリア次第では再びJ1上位クラブからの関心も見込まれる。
2025年:リーグ戦17試合出場、0得点、2アシスト、警告/退場:0/0

吉田豊(名古屋グランパス|34歳)
Embed from Getty Imagesポジション:左サイドバック
所属:清水エスパルス
経歴:静岡学園高 → 日本体育大 → 清水エスパルス(2010〜)→ ヴァンフォーレ甲府 → サガン鳥栖 → 名古屋グランパス(2021〜) →清水エスパルス(2023〜)
通算400試合超を誇るベテラン左SB。鋭い出足と低い重心の対人守備に定評があり、球際では一切妥協しない。34歳になった今もなおスプリント量はリーグ上位クラスで、今も戦えるハードワーカーとして存在感を放っている。
プレーだけでなく、チーム内での発信力・鼓舞力にも優れており、ピッチ内外でチームを引き締める“戦うムードメーカー”という評価も高い。清水ではベンチでもピッチでも常に声を出し、若手の見本としても重宝されている。吉田のような存在は、単なる補強以上の“空気を変える男”となり得る。
2025年:リーグ戦9試合出場、0得点、0アシスト、警告/退場:0/0
まとめ|”誰を獲るか”は”どう戦いたいか”で決まる
補強は単なる“人数合わせ”ではない。
それは今いる選手をどう活かすのか、どの局面に強くなりたいのか――クラブとしての明確な方向性と覚悟を示す行為だ。特に横浜F・マリノスにとって、左サイドバックというポジションは、攻守両面の生命線であり、ビルドアップの起点でもある。
今そこに「本職は一人」という状況がある以上、この夏の補強は“緊急対応”ではなく“戦略的選択”でなければならない。戦術に即フィットする即戦力か、経験で守備を整えるベテランか、未来を託す成長株か。
誰を獲るかによって、チームがどんなサッカーを目指していくのかがはっきりと輪郭を持ちはじめる。横浜F・マリノスがこの夏、どのタイプを選ぶのか──
それは、後半戦の戦い方を決定づける、分岐点となる。