勝利の影で問われた「指導の言葉」
2025年12月25日、黒田剛監督に対する「けん責」処分が、FC町田ゼルビアおよびJリーグから公表された。パワーハラスメントの認定には至らなかったものの、それでも指導環境の改善が求められるという判断だった。注目すべきは、戦術や成績ではなく、指導の過程で用いられた言葉や態度が検証対象となった点だ。プロスポーツの世界では結果が最優先されてきた。
しかし勝たせるための指導であっても、その伝え方が無条件に許容される時代ではなくなっている。黒田監督の件は、そうした変化を象徴する出来事だった。
本記事では、この発表を起点に、過去にJリーグで問題化した指導者の事例を整理していく。
なぜ「指導」が問題として扱われるようになったのか
近年、Jリーグでは監督の言動が公に検証されるケースが増えている。その背景にはリーグ全体の環境変化がある。クラブやJリーグにおける相談窓口や内部通報制度が整備され、結果としてこれまで表に出にくかった現場の声が公式に拾い上げられるようになった。
また、指導者に求められる資質も変化している。厳しさや統制力だけでなく、言葉の選び方や伝え方も含めて「指導力」と評価されるようになった。さらに、チーム内の関係性が複雑化し、主力と控え、若手とベテラン、監督とコーチ陣の摩擦が問題として顕在化しやすくなっている。こうした流れの中で、かつては指導として許容されていた言動が、現在では問題として扱われるようになった。
曺貴裁|湘南ベルマーレ時代に問題化した発言

曺貴裁が問題視されたのは、湘南ベルマーレ監督在任中の2018年から2019年にかけてだった。報道では、スタッフに対して「チームの癌だ」「顔も見たくない」「お前がいるとチームの質が落ちる」といった表現が、公の場で繰り返し用いられていたとされている。
さらに、選手に対しても強い言葉で叱責する場面があったことが伝えられており、こうした発言が精神的な負担となっていた点が問題視された。これらは叱責の範囲を超え、人格を否定するものとして受け止められた。そのためJリーグは内部調査の結果、指導の在り方に問題があったと判断し、一定期間の指導資格停止処分を決定。この処分は2019年10月に公表された。
一方で、曺は湘南をJ1に定着させた実績を持つ監督でもあり、厳しい要求の中で成長を促されたと振り返る選手がいることも報じられている。指導を受けた選手の中には、曺の姿勢や熱量を評価し、強い信頼を寄せている声があるのも事実だ。処分後は資格停止期間を経て現場復帰し、2021年からは 京都サンガF.C. の監督を務めている。ハードワークと組織性を軸にチームを上位へ引き上げ、2025シーズンは最終盤まで優勝争いに絡む位置で戦い続けた。成果があっても、言葉は切り離して判断された点に、この事例の本質がある。
金明輝|サガン鳥栖時代に認定された言動と処分

金明輝のケースで問題とされたのは、サガン鳥栖監督在任中の2018年から2020年にかけての指導行為だ。調査資料および公式発表では、選手に対して「死ね」「消えろ」といった人格を否定する発言があったこと、さらにミスを理由に身体的接触を伴う行為が確認されたとされている。
その結果Jリーグはこれらをパワーハラスメントに該当すると認定し、指導資格停止処分を決定。あわせてJFAからは指導者ライセンスの降格という重い処分が下された。処分内容は2021年8月に公表されている。ただし金は鳥栖をJ1に定着させ、若手を積極的に起用しながらチームをまとめてきた実績を持つ。
処分期間を経て指導資格を回復し、2025シーズンからは アビスパ福岡 の監督に就任。目標としていた上位争いには届かなかったものの、それでもシーズン序盤には首位に立つ時期もあり、組織的な守備を軸に安定した戦いを続けた。
秋田豊|高知ユナイテッドSCでの言動とクラブ判断

秋田豊が問題視されたのは、2025年シーズン前半、高知ユナイテッドSC監督在任中の言動だった。報道では、スタッフに対して「お前はADHDだろ。病院に行ってこい」といった発言や、全体の前で特定の人物を排除するかのような表現があったとされる。
さらに、負傷や体調不良を訴える選手に対しても、出場を強く促す言葉が使われていたとされ、結果として精神的負担につながっていた点が問題視された。クラブは内部調査を実施し、指導上の言動が選手に影響を与えていたことを確認。
そのうえで2025年9月30日、双方合意の上で契約解除・監督辞任に至ったと公式に発表した。
黒田剛|再び問われた「指導」と「境界線」

改めて黒田剛のケースに戻る。町田ゼルビア監督として指揮を執っていた2024シーズン後半から2025シーズンにかけて、指示に従わない姿勢を強く戒める表現や、公の場で特定の選手・スタッフの責任を強調する叱責があったと整理された。
ただしJリーグはこれらの言動について、パワーハラスメントの認定基準には達しないと判断した。それでもなお指導環境の改善が必要として「けん責」処分を決定。この判断は2025年12月25日に公表されている。成果とは切り離して言葉や伝え方が検証対象となった点に、現在のJリーグが引こうとしている線が表れている。
まとめ|黒田監督の事例が示した現在地
曺貴裁、金明輝、秋田豊、そして黒田剛。いずれの事例も、指導の厳しさそのものが否定されたわけではない。むしろ問題とされたのは、どの言葉が、どの場面で使われ、それがどう受け取られたかという過程だった。
厳しい基準を示し、実際に成果を出してきた指揮官であっても、その言葉は無条件には許容されなくなっている。黒田監督の「不認定・けん責」という判断は、排除でも免罪でもなく、是正を前提とした現在のスタンスを象徴している。勝たせるための指導は今後も求められる。だからこそその伝え方は、これまで以上に問われ続けることになる。


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