遠野大弥の長期離脱が与える衝撃
2025年6月、横浜F・マリノスに衝撃が走った。遠野大弥の長期離脱が公式発表されたからだ。右アキレス腱断裂による全治6か月という診断は、チームにとって計り知れない痛手となった。
遠野はビルドアップの出口となり、前線からの守備でも強度を担保していた万能型MFである。アンジェ時代から進化を遂げた現在のマリノス型において、まさにキーピースと呼ぶべき存在だった。その喪失は戦術だけでなく、精神面にも影響を及ぼしている。
一方で、今季のマリノスは得点力不足が叫ばれている。遠野の離脱は「攻守の連動性」を切り離し、チームの課題をさらに深刻化させる要因となった。
こうした状況を踏まえれば、補強は避けられない。実際にリストアップが予想されるのは海外で実績を積んだ即戦力たちだ。さらに、戦術的な適応性や現実性を考慮すれば、候補は限られてくる。今回はその中から5人を取り上げ、マリノスにフィットするかを検証していく。
斉藤光毅
推進力とトランジション局面での強度に秀でるウインガー。現在はイングランド2部のQPRでプレーしている。
対人局面でのアジリティに加え、狭いスペースでも仕掛けられるドリブルスキルを持つ。近年はプレーの質が格段に向上しており、ポジショナルプレーの意識も高まっている。さらに、守備時には素早いリトリートが可能だ。一方で攻撃時にはカットインと幅取りを両立できる。これはマリノスのサイドアタッカーに求められる資質と完全に一致する。
現スカッドに不足する“縦への推進力”を加えられる存在として、最もフィットする人材の一人といえる。
2. 浅野拓磨
背後特化型のストライカー。浅野拓磨はスペースを突く破壊力でリーグ屈指の存在だ。
カウンター局面では一撃必殺のスプリントを誇る。さらに、オフ・ザ・ボールの動きに優れており、マリノスがハイプレスを回避された場面で活路を見出す有効なオプションとなる。
しかし、細かい連動を重視するポゼッションサッカーとの親和性には疑問が残る。局面を単独で打開できる強みを持つが、その一方でチーム全体との“文脈の共有”にどれだけ短期間で適応できるかが重要なポイントとなる。
三好康児
“10番型”プレーメイカー。バイタルの創造性を担う。
かつて横浜F・マリノスでプレーしていた経験があるため、クラブの哲学を理解している。復帰すれば即戦力として適応できる可能性が高い。
得意の左足から繰り出されるスルーパスや、ポケット侵入からの崩しは今のマリノスに不足している要素だ。チームに“創造の解像度”を加える武器となる。
さらに、守備面でもプレッシング時の判断の早さと切り替えのスピードが光る。単なるテクニシャンではなく、攻守に貢献できる点も強みだ。遠野の離脱で失われた攻撃のスイッチを取り戻す鍵となる可能性がある。
オナイウ阿道
三好に続きこちらも元OBのストライカー。
フランスで得点感覚をさらに磨いた彼は、今夏の最も現実的なターゲットといえる。かつて横浜F・マリノスでプレーしていたため、戦術理解や連携構築のタイムラグが少ない点も大きな魅力だ。
今季のマリノスは“前線の起点不足”に苦しんでいる。一方で、オナイウであればロングボールにも地上戦にも対応可能。ポゼッションとカウンターの両局面で柔軟に機能し、戦術の幅を広げられる。
得点力はもちろん、戦術的オプションとしても計算できる存在であり、復帰が実現すれば大きな補強になるだろう。
5. 古橋亨梧
言わずと知れた元セルティックのレジェンド。高精度の動き出しを最大の武器とするストライカーである。
今冬移籍したリーグアンで出場機会に恵まれず苦戦しているが、セルティックで残した実績はトップクラス。ゴール前でのセンス、動き出しの質、フィニッシュ精度のすべてが高水準にある。
特に、マリノスが支配率を高めて押し込む展開では“限られたチャンスを仕留める力”が試合を決める要素となる。その点で古橋のストライカーとしての資質は大きな武器だ。
さらに、若手への好影響も期待できる。もし獲得が実現すれば、攻撃陣の総合力を一段階引き上げる存在になるだろう。
補強の焦点──2025年後半戦を左右する選択
今夏の補強は、単なる「遠野大弥の穴埋め」にとどまらない。むしろ、前半戦の不振から脱却し、再浮上を狙う転換点と位置づけられる。
この5人の中で、フィット率と実現可能性の両面から最有力に挙げられるのはオナイウ阿道だ。戦術的にもクラブ的にも“ハマる”予感が強い。続く候補は三好康児と古橋亨梧。どちらもマリノスの「型」に合致する数少ない国内選手といえる。
さらに重要なのは、クラブが補強の重点をどこに置くかだ。ポゼッションの質を高めるのか、推進力を強化するのか、あるいは決定力に投資するのか。その判断ひとつで、2025年シーズン後半の表情は大きく変わるはずだ。
