はじめに
従来の「ゴール数」「支配率」だけでは、チームや選手の本質を捉えきれない時代になった。
Stats Perform社の Opta Vision を中心に、JリーグにもAI解析が本格導入され、これまで“見えなかったプレー”が数値として浮かび上がり始めた。
本稿では、玄人ファンやアナリストが注目する新指標を軸に、2025年シーズンを読み解く観点をまとめる。
2025年は「AIデータ」の時代
旧来のデータは、選手がボールに触れた瞬間の結果(シュート、パス、クロス)が中心だった。しかし、選手がボールを持つ合計時間は数分に過ぎず、試合の大半は“オフ・ザ・ボール”で進行する。
2025年の分析潮流は、この 「ボールがないところでの貢献」 を数値化する方向に大きくシフトしている。AI解析が進んだことで、選手の意図・戦術の機能性・チーム構造が、より精密に把握できるようになった。
Off-Ball Runs──触らずに試合を動かす「影の支配者」
FWの価値はゴール数だけではない。Optaのトラッキングデータは、誰がどのように相手守備を動かしていたかを可視化する。
大迫勇也(ヴィッセル神戸)──Decoy Runs の象徴
大迫は「ボールを受ける前」の脅威が際立つ。
Decoy Runs(囮の動き) が示すのは、味方へのスペース創出。武藤嘉紀、宮代大聖らが得点機を得る背景には、大迫のオフボールワークが存在する。
細谷真大(柏レイソル)──報われない走りの価値
細谷は Runs in Behind(裏への抜け出し) の頻度が突出する。
パスが通らなくても、常にDFラインの背後を脅かす存在であり、攻撃の重心を押し上げる“構造的な貢献者”といえる。
Expected Threat(xT)──アシストを超えて可視化される「真の司令塔」
xTは、ボールを危険度の高いエリアへ運んだ貢献度を評価する指標。「アシストの一つ前」を測るため、プレーメイカーの本質が浮かびやすい。
マテウス・サヴィオ(柏)──High Value Carry の破壊力
ボールを持った状態で前進させ、相手ボックス付近まで運ぶ能力がxTを押し上げる。得点やアシストに直結しなくても、その“運ぶ力”が攻撃の期待値を底上げする。
脇坂泰斗(川崎F)──縦パスで局面を変える
脇坂の高い Pass xT は、リスクを負った縦パスの価値を裏付ける。安全な横パスではなく、局面を一気にチャンスへ変える配球が、チームの攻撃構造を支えている。
Direct Speed──スタイルを決定づける「攻撃速度」と「パス本数」
Direct Speed(攻撃速度) と Passes per Sequence(1攻撃のパス数) の関係性は、Jリーグのスタイル分布を描く上で極めて有効だ。
町田ゼルビア──“保持”ではなく“速度”を選んだチーム
黒田剛監督の町田は、典型的な High Direct Speed / Low Passes 型。奪った瞬間から最短でゴールへ向かう。支配率で戦いを測ると、このチームの本質を誤解する。
アルビレックス新潟──崩れるまで待ち続ける遅攻の質
新潟の Low Direct Speed は、手詰まりではない。相手の陣形がズレる瞬間まで辛抱強く動かし続けることで、xGを高める“質の高い遅攻”を実現している。
PPDA & High Turnovers──守備から読むチーム戦術
現代の守備分析はタックル数ではなく、チーム全体の意図を測る指標が鍵となる。
サンフレッチェ広島──奪ってから始まる攻撃
広島は High Turnovers と、シュートにつながる Shot-Ending High Turnovers が多い。守備を“攻撃の起点”と考えるスタイルが、数値として明確に表れる。
アビスパ福岡──PPDAの高さが示す「罠」
福岡はPPDAが高い=相手にパスを持たせる時間が長い傾向がある。ただしこれは受動ではなく、意図してブロックに誘い込み、被xGを低く抑え続ける守備設計を示す。
データを知れば、ピッチの景色は変わる
「なぜこの選手は効いて見えるのか」
「なぜ押し込まれているのに勝てるのか」
その答えは、従来では見えなかった“マニアックな指標”の中に潜んでいる。
2025年のJリーグは、ボール非保持のプレー、戦術的意図、構造的な価値を理解することで、全く異なる景色を見せてくれる。AIデータが当たり前になった今こそ、数字の裏側にある“真の支配者”を読み解く視点が求められる。


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