鈴木健仁とは何者か。資金力に頼らない編成の実像

2025年12月16日、ジェフユナイテッド市原・千葉のGM鈴木健仁が横浜F・マリノスの強化責任者に就任することが発表された。
一見ビッグネームではない。だが、今のマリノスが直面している状況を踏まえれば、この人事は極めて現実的な選択だったと言える。
親会社・日産自動車を巡る経営問題。そして、シティ・フットボール・グループとの関係性が転換点を迎える中での編成トップ交代。マリノスはいま、「これまで通り」を前提にできない局面に立っている。
その舵取り役として選ばれたのが、鈴木健仁だった。
数々のチームを渡り歩いた現役時代
| 期間 | クラブ | カテゴリー | ポジション |
|---|---|---|---|
| 1992年途中〜1998年途中 | 横浜マリノス (現・横浜F・マリノス) |
J1 | DF |
| 1998年途中〜1999年 | 京都パープルサンガ (現・京都サンガF.C.) |
J1 | DF |
| 2000年 | ガンバ大阪 | J1 | DF |
| 2001年〜2002年途中 | ヴィッセル神戸 | J1 | DF |
| 2002年途中〜2003年 | ベガルタ仙台 | J1 | DF |
鈴木健仁は1971年生まれの元Jリーガーで、ポジションはディフェンダー。
主にサイドバックとして、1990年代から2000年代初頭にかけてプレーした。横浜マリノスでプロキャリアをスタートさせ、その後は京都、G大阪、神戸、仙台と複数クラブを渡り歩いている。
12年間のプロ生活で通算195試合に出場し、11得点を記録した。
マリノスでは主力として活躍した一方で、移籍後は出場機会に恵まれない時期も経験している。Jリーグ創設期に名を馳せた、いわゆるスター選手ではない。だがその分、出場機会を得る難しさや、クラブ内での序列を現実として知っている。
都市クラブの激しい競争環境も、地方クラブが抱える制約も体験してきた。一つの成功体験に依存しなかった現役時代。
その積み重ねこそが、後年の「選手を肩書きで見ない」編成思想につながっているのではないか。
引退後は一貫して「強化の現場」に身を置いた
| 期間 | クラブ | 役職 | 主な役割・トピック |
|---|---|---|---|
| 2004〜2014 | アルビレックス新潟 | 強化育成部 スカウト担当 |
長期スカウティング、戦力基盤づくり |
| 2015〜2019 | アビスパ福岡 | チーム統括部長 (強化責任者) |
J1昇格、若手起用(中村航輔・冨安健洋) |
| 2020 | ジェフユナイテッド千葉 | テクニカルダイレクター | 編成・チーム設計の再構築 |
| 2021〜2025 | ジェフユナイテッド千葉 | ゼネラルマネージャー | J1復帰、再起型補強、夏の緊急補強 |
2003年に現役を引退すると、鈴木健仁はアルビレックス新潟でスカウトとしてキャリアをスタートさせた。その後、2004年から2014年までの約10年間、強化育成部に在籍し、地方クラブがJ1で戦い続けるための人材発掘と基盤づくりに携わっている。
2015年からはアビスパ福岡でチーム統括部長に就任した。就任1年目にJ1昇格を果たす一方、翌年にはJ1で最下位となり降格も経験する。成果と課題の両方を、編成の責任者として真正面から受け止めた時期だった。
2020年からはジェフユナイテッド千葉でテクニカルダイレクターを務め、翌2021年からはゼネラルマネージャーに就任。低迷が続いていたクラブを、短期的な刷新ではなく、段階的な積み上げによって立て直し、最終的にJ1復帰へと導いている。
鈴木のキャリアを振り返ると、常に制約の多い環境で強化を任されてきたことが分かる。
条件を見極め、戦力を積み上げてきた編成手腕
鈴木健仁の強化を語る上で欠かせないのが、「選手を見る基準」の一貫性だ。
実績や知名度ではなく、現在のチームに適合するかどうか。その視点はアビスパ福岡時代に顕著だった。
2015年には中村航輔を期限付き移籍で獲得し、守護神として起用する。短期間の在籍ながら、昇格を争うシーズンを支える存在となった。翌2016年には冨安健洋がトップチームでデビュー。完成度よりも将来性を重視し、センターバックとして起用が続けられた。
いずれも当時は未知数の存在だったが、成長を見越した判断が結果に直結した。その後2人は日本代表クラスの選手として活躍の場を欧州に移すことになる。
ジェフ千葉では、その方針がより明確な形で表れた。J1では出場機会を得られていなかった選手を積極的に獲得し、再び主力として起用する編成を進めている。実績の再評価ではなく、役割の再定義によってチーム力を底上げするアプローチだった。
こうした判断の積み重ねが、クラブ全体の競争力を保ち続ける要因となってきた。
ジェフでのインタビューに表れた思想

ジェフ時代のインタビューでは、鈴木健仁のスタンスがはっきりと表れている。
結果については「悔しい」と率直な感情を示しつつも、言い訳に終始することはない。ケガ人が相次いだシーズンにおいても、「編成側の責任」と明言し、監督や選手にその矛先を向けることはなかった。
また、強化を単なる選手補強に限定していない点も特徴的だ。スタッフ体制や役割分担、フィジカルやメディカル領域まで含めて、「シーズンを通してチーム力を維持する仕組み」を整えることこそが、強化の仕事だと語っている。
多くを語るタイプではない。しかし判断は明確で、結果に対する責任を引き受ける姿勢が一貫している。そこに、現場とフロントの両方を理解するGM像が浮かび上がる。
なぜ今、マリノスに鈴木健仁なのか
現在のマリノスは、いくつかの前提条件が揺らぐ局面にある。
親会社である日産自動車を巡る状況は不透明さを増し、これまでと同じ環境が続くとは限らない。加えて、シティ・フットボール・グループとの関係性も転換点を迎えつつあり、CFG人脈として招かれた西野努氏が1年で退任した。
そうした流れの中で後任に選ばれたのが、クラブの内情を理解し、異なる条件下での強化を経験してきた鈴木健仁だった。マリノスOBであることに加え、制約のある環境でチームを構築してきた実務経験が評価された形と言える。
環境が安定していた時代から、前提を見直す時代へ。
この過渡期に求められたのは、理想論を掲げる強化責任者ではなく、現実を直視しながらクラブの競争力を保つ人物だった。
鈴木健仁の仕事は、これからが本番になる。
派手な変化はないかもしれない。だが今のマリノスにとって必要なのは、状況を見極め、確実に積み上げていくその手腕なのではないか。

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